生きづらいふ

人生をクリアに、シンプルに、さわやかに。

そんなに病んでるように見えます?

あれはたしか2年くらい前の話。

 

その日はちょいと帰宅が遅くなり、23時くらいに最寄り駅に帰ってきた。「あー、つかれたなー」とか思いながら改札を出て、駅を出ようとしていた。周りには同じようにくたびれた様子のサラリーマンや学生などがまあまあの人数いた。

 

ふと駅の出口に目をやると、一人の若い男性がなにやらクリップボードらしきものを片手に立っている。たまに駅付近にいるアンケートの類かなにかだとすぐにわかった。「こんな時間にもやってんのかよ」と思いながら、彼を見ていた。

 

駅からどんどんサラリーマンなどが出てくるが、彼はいっこうに声をかけようとしない。声をかける相手を見定めている様子もない。思いっきりスルーしているのである。この様子なら声をかけられる心配はなさそうだ、と安堵しながら僕は彼が立つ駅の出口へと歩みを進めた。

 

そして僕が彼から3mほどの距離まで来たとき、これまで微動だにしなかった彼が動いた。彼の視界に僕が入った瞬間、迷うことなく一直線に僕に近づいてきたのだ。

 

「すいません、アンケートやってるんですけどお時間大丈夫ですか?」と彼。

 

なぜだ。あれだけサラリーマンをスルーしておきながら、なぜ僕なんだ。なんなんだお前は。しかもこんな時間だ。やるなら昼にやれ。それにアンケートなど答えたくない。こっちはさっさと帰りたいんだ。こちとら疲れてるんだ。ここはサッと断ってさっさと帰ろう。

 

「あ...はい...。大丈夫です...。」

 

見事なコミュ障っぷりである。無理だった。断れなかった。こういうときに八方美人でお人よしな性格は損をするのだ。彼のアンケートに答えることになってしまった。人の邪魔にならないようにすこしすみっこのほうに移動し、アンケートがはじまった。

 

もうだいぶ前の話なので、どんな質問をされたのかはあまり覚えていない。そのアンケートの主旨が「青少年の精神的な状況」を調査するものだったのはなんとなく覚えている。最初は「学生ですか?」とか、「なにを専攻してるんですか?」とか、そんなのを聞かれた。

 

アンケートが進んでいくうちにだんだん質問内容がディープになってきた。「人生について悩んだり、考えたりすることはありますか?」といった具合に。当時の僕は、まさに生きづらさを感じ、日々模索していた日々だったので、正直に「ええ、まあよくありますねえ」と答えた。

 

すると彼は「ふむふむ」といった様子で僕を見ている。そして彼はついにほんとうの正体を現した。

 

「あの、僕たち統一教会というものでして。人生について勉強したりしてるんです。興味ありませんか。」と。

 

ほう、なるほど。統一教会というのがなんなのかは知らないが、おそらく宗教だと察することができた。これはまともに話聞いちゃだめなやつだ、とすぐに判断した。ほんとはもっと早く気付くべきだったのだが。しかしそれでもお人よしな僕はなかなか断ることが出来なかった。「興味ないです」ときっぱり言って帰ってしまえばいいのだが、なかなかそれができずだらだらと相手の話を聞いてしまっていた。

 

そんなお人よしな僕に彼は調子に乗ってこんな提案までしてきた。

 

「もしよかったら、3000円で手相とか姓名判断とかしますよ。これからどうですか?」と言ってきた。

 

これから!?時計読めるかい!?いまはもう23時を過ぎてるんだよ、きみ。もうすぐ日付変わろうかって時間帯に占いをしてもらうやつがどこにいるんだ。しかも金をとる気か。だめだやっぱりすぐ帰ろう。いますぐ帰らないとこのまま占われてしまう。

 

さすがにちょっとイライラしてきたので、思い切って「すいません、ほんとに興味ないんで!」と勇気を出して言った。すると、彼は心底残念そうに「そうですか...」と言って僕を解放してくれた。かれこれ15分くらい彼に拘束されていた。

 

僕は家へと向かって歩き出し、すぐにスマホを取り出し「統一教会」をググった。すると思いっきり悪評が出回っている宗教であることが分かった。まさか家まで付けられたりしないよな、と背後を警戒しながらも無事に家に帰ることが出来た。

 

それから数週間後のこと。また僕は最寄り駅の改札を出て家へ帰ろうとしていた。今度はお昼の時間帯だった。すると前方にこないだの彼とは違う青年が前回と同じ場所に立っているではないか。嫌な予感を感じながら、駅の出口へと向かうと、やっぱりだ。青年は僕を見るなり、一直線にこっちに向かってきた。そしてこう言った。

 

「青少年の心についてのアンケートを...」

 

またか...。なんなんだ。そんなにオーラが暗いか?そんなに病んでいるように見えるか?宗教で救われそうな顔をしているか?まったくふざけた話だ。今回は一言も話を聞かずに帰ってやる。

 

彼が言い終わる前に「こないだも同じやつやりましたよ」とうんざりした顔で言ってやった。すると彼は「あっ...」と声を漏らし、僕のうんざりした顔を見るなりすごすごと引き下がっていった。そして僕は意気揚々と家路へとついたのだった。めでたしめでたし。

 

しかし2度も宗教のアンケートに声をかけられるとは。しかも2度とも、あきらかに見た目を判断材料にして声をかけている。少しでも人生に悩んでいて、宗教を頼りにしてくれそうなやつを彼らは狙っていた。まったく失礼な話じゃあないか。人を見た目で判断するということほど失礼なことはない。見た目だけで病んでいると思われては心外である。

 

まあ当時の僕は病みまくりだったので、彼らの目は正しかったのだが。